嫌いな男 嫌いな女
「はな、して」
「あ?」
日本語しゃべって。
「肩……もう、逃げないから」
声も出てるのか自分で心配だ。
自分の声よりも、胸の音の方が響いている。
涙が止まった代わりに、今度は動悸が収まらない。このまま近くにいたら血液沸騰しちゃうかもしれないし、この心拍音が巽にも伝わってしまいそうだ。
「あ、ああ」
巽も気がついたのか、パッと肩から手を離して、お互いに一歩、離れた。
この雰囲気をどうしたらいいのかわからなくて、口を噤んだままどこかに向かって歩いた。
なんだか、変な感じ。
まだ心拍数が平常に戻らないんだけど、どうしたらいいんだろう。
「ったく子供みたいに泣いてんなよ。無駄に走らせやがって」
「……別に追いかけてこなくてもよかったのに」
「子供が泣いてるのを見過ごせないんですよ、俺優しいから」
……どこが優しいのよ。あんたのその曲がりまくったひねくれた性格のどこが。
でも泣いたのは私だし、助けられたのも事実だ。
言える文句もない。
「お前、金ある?」
ファーストフードを指差して巽が私に話しかける。
「俺腹減ったんだけど」
……だからなに?
「お前のせいで、腹減ったからおごれ」