嫌いな男 嫌いな女
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遊びに行く予定だったから、ファーストフードをおごるくらいのお金は財布に入っていた。
一緒にファーストフードとか。しかもおごるとか。普段なら絶対ありえないことだけど……今日はやっぱり申し訳ない気持ちもあって、断ることは出来ない。
巽とふたりっきりっていうのも落ち着かないっていうのに。
「俺、セットで、飲み物コーラ」
店に入るやいなや、それだけ言って巽はさっさと席を探しに奥に入っていった。
別にいいけどさ、一緒に並んで、トレーをもってくれたりするもんじゃないの?
あの巽に紳士らしいことを期待するほうがバカなのかもしれない。
もしかすると、私にだけそうしないだけで、彼女とやらには優しくしてるのかもしれないけど……。
「はい、巽のセット」
「ああ、サンキュ」
なんだか、恋人同士みたい、なんて。
そんなはずもないのに。
向かいの席に腰を下ろして、自分の分のポテトを一つ摘んで口の中に放り込んだ。
「お前、それだけ?」
「お腹空いてないもん」
ポテトとジュースだけの私に巽が話しかけて、わたしが普通に答える。
こんなこと、今までにあったかな?
「……由美子たち……どうしてるかな」
「大丈夫だろ、勝手に楽しんでんじゃねえの?」
きっと初めて。
こんなふうに、巽とふたりでどこか店によるとか、こうして話をするとか。
他愛無い話をして時間を潰すだけ。なんてことのない時間だけれど、奇跡みたいにも思える。
こういうのは……悪くない。
もしかして、お互い少しは大人になったのかな。
もしかしたらこのまま、これからもこんな関係になれるかもしれないのかな。
……だったら、いいな。
ケンカしてるよりも、相手を避けて過ごすよりも、会えば自然に話ができるような、そんな、幼なじみの関係のほうが、いい。