嫌いな男 嫌いな女

「じゃあなにか? 他の男の前ではかわいいのか? 見てみたいね!!」

「死んでも見せるか!」

「さぞ気持ち悪いんだろうなあ!」

「女の子にへらへらしてるあんたよりもよっぽどマシだと思うけど!?」

「お前の気持ち悪さに勝てねえよ!」

「なによ! ガキ!」

「うるせえ! ブス!」


いつの間にか店内だっていうのにふたりで大声でケンカだ。
見かねた店員が恐る恐る近づいてきて、俺らの間に入る。


「お客様……他のお客様の迷惑に……」

「うっせーな! 帰るよ! 今すぐにな!」

「帰るわよ!」


ほぼ同時に店員に八つ当たりをしながらトレーを手にして席を立った。
……こんなときまで同じタイミングだ。

ったく。こんなワケのわかんねー女と一緒にいてられるか!


「ついてこないでよ!」

「お前がどっかいけ!」


ふたりして店を出て、すぐさま電車に乗り込んだけれど家が隣なんだから、帰り道だって同じだ。
どっちかが道を変えれば済む話だけど、相手のせいで自分が道を変えるのはプライドが許さない。


「オレの前を歩くな! ブス」

「あんたこそ、そばに寄ってこないでよ!」


駅を出てから家に向かうまでずっとそんな会話をし続けた。
道行く人が私たちのケンカに、目を丸くしてみてくるけど、今はそれどころじゃない。


「……なにしてるのふたりとも……」


もうすぐ家でやっと美咲と別れられる! と思ったら、家の前にいた渚が俺らを見て呆れた顔をしていた。
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