嫌いな男 嫌いな女
「……美咲?」
こういう、最悪の気分のときに出会うのが隣の巽だ。
いっつもタイミングが悪いんだから。なんで同じタイミングで家を出るんだろう。
こんなところで会ったら、行き先は一緒なんだから一緒に行くことになるじゃない。
なにを言われるんだろう、なにを言うだろうと一瞬気構えたけれど、巽はなにも言わずに歩き出す。
……無視、か。
この前思い切りケンカしたもんね。
巽の元カノ見て、なんかすごく、むかついてきて。っていうかそのときの巽に。
ぶっきらぼうには変わりないのに、なんか、私の知らない男って感じだった。
あと、なんかすごく敵意を感じるような元カノにも、むっとしたんだけど。
巽といると、情緒不安定になるのかもしれない、私。
ああ、なんかまた泣いてしまいそうだ。
ぎゅっと瞼を固く閉じて、小さく深呼吸してから数メートル先を歩く巽の後をついて歩いた。
やっぱり、こうなっちゃうんだ、私たちは。
この前一緒にファーストフードにいたときは……もう少し仲よくなれるかも、なんて思ったけど。
やっぱり、私たちの関係は、こんなんなんだ。
近くにいるのに、絶対に交わらない感じ。同じ道を歩いていても、絶対隣にはなれない。
もし、もしも。
今私が巽の隣に並んだら、なにかが変わったりするのかな……。
ぼんやりと、わけのわからないことを考えながら地面を見て歩いて行くと、巽の脚が視界に入ってきた。
え?
前を歩いてたんじゃなかったっけ?
そう思って顔を上げると、巽が立ち止まって私をじっと見ている。
眉間にシワを寄せて、不機嫌そうに。
「……な、に?」
「お前、なんで今日来てんの?」