嫌いな男 嫌いな女
な、なんで急にそんなこと言われなくちゃいけないの……?
「約束、したんだから、仕方ないじゃない」
そんなに、来てほしくなかったの?
そう思うと、声が震えてしまった。
ぎゅっと唇を噛んで、顔を見られないように巽を追い越すように右に回ろうとする。
それを巽が引き止めた。
「お前、帰れ」
「なんで……」
なに? そんなに私が邪魔なの? そんなに、私と会いたくないの?
「帰れ」
今まで、何度も巽とケンカした。
何度も怒らせてきた。何度も怒った顔を見た。
だけど、今、私に向けている顔は初めて見る。真面目な顔で、眉間におもいっきりシワを寄せて、声もいつもより、低い。
ねえ、そんなに私が嫌いなの?
「嫌ならあんたが帰ればいいじゃない……」
ああ、また泣いてしまいそうだ。
巽はほんとに私を泣かせるのが得意だよね。
巽の手を振りほどって、重い足を、体を精一杯動かして早足で駅に向かった。
もう、巽に泣いてる私を見られたくない。
巽がどんな顔で私を見ているのか、想像するのも嫌だ。
私を呼び止める声も聞こえなかった。追いかけてくる気配もない。
電車に乗り込んで、姿が見えなくなったことにホッとしながら、窓の外を見続けて考えないようにして目的地に向かった。