嫌いな男 嫌いな女
「返事は、待つよ」
どうしよう、と頭をぐるぐる回していると、大樹くんが私の返事を待つこともなく、そう告げた。
「今、聞いたら……無理っぽいからさ」
「え……」
にこっと私に笑顔を向けてから「ね」と念を押すように言う。
大樹くんのことは、好きだと思う。
それが、付き合いたいとか、そういう気持ちかと言われると、わからない。
優しくて、かっこいい。話しやすいし、私にいつも優しい。
いつもにこにこしているし、口だって悪くない。
なのに……私はいつも、それを感じる度に、巽のことを考えてしまっているんだ。
大樹くんと巽を比べたら、月とすっぽんほども違うと思う。
冷静に、頭で考えたら、大樹くんのほうが好きに違いない。じゃないとおかしい。だって巽のいいところなんて、私にはひとつも思い浮かばないんだもん。
嫌いなところばっかり。
なのに……なんで、巽のことを思い出してしまうんだろう。
こんなふうに、笑って話したこともないのに。楽しい時間を過ごしたことなんて一度だってないのに……。なんで、巽を、探してしまうんだろう。
これが、“好き”っていう気持ちだったとしたら、自分が信じられないんだ。
だけど、やっぱり、そうなのかなって、思う気持ちもあるんだ。
「巽が、好き?」
「……わか、んない」
意味もなく涙が溢れてきて、それを必死に拭いながら答えた。
好きかもしれない、でも、好きな理由が見当たらない。好きなところなんてひとつもない。
だってさ、もしも今、巽に会ってケンカでもしたら、やっぱり大嫌いだ! って思うかもしれない。この気持ちは気のせいだ! って思うかもしれない。
「否定は、しないんだ」
ふふ、と優しく笑ってから、大樹くんはアイスティーを飲み干した。
テーブルに置くと同時に、カラン、と氷が溶けて崩れる音がする。