嫌いな男 嫌いな女
 


「美咲が、巽くんのことなんとも思ってないことに、傷ついてるんでしょ?」



右手を、血が出るんじゃないか、と思うくらいにきつくきつく握りしめた。


「好きなんでしょ?」

「嫌いじゃない」

「好きでもないの?」


「……多分、好きだな」



口にしたのは、もしかしたら言わされただけなのかもしれない。
だけど、言葉にしたら、なんかすごい、体が軽くなった。

同時に、泣けてきた。



「やっぱそうなんじゃない」


くすっと諦めたように沙知絵が笑う。
それを見て俺もバカバカしく思えて笑みが零れた。


「でも……美咲は好きじゃないよ? 巽くんのこと」

「知ってるよそんなこと」


小さい頃から嫌われているのは俺が一番わかってる。


「だから、私は諦めない」


……はい?



「諦めない。やっぱり、付き合って。だって巽くんだって望みないわけだし」

「いや、ちょっと待て! なに言ってんだお前!」

「別におかしいこと言ってないでしょ? お試しでもいいからさ」


いやいやいや、おかしいだろうが。
なんで好きかもしれないって自覚して、他の女と付き合わなきゃいけねえんだよ。


「無理、無理無理」

「そこまで否定する!? ひどい! じゃあ、しばらく待ってるから、それならいい?」

「いや、待たれても……付き合うとか言い切れねえよ」

「それでも、いいから」


徐々に真剣な顔になる沙知絵を見ていると、それ以上拒否できなくなって負けた。

っていうか、待ってるってなんだ。いつまで待つんだろう。
なんかすげえプレッシャーなんだけど。

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