嫌いな男 嫌いな女
『彼女の理性』
■
足が動かないって本当にあるんだ……。
小さくなっていく巽の背中を見ながら、涙をながすことしか出来ないなんて。
追いかけて、文句を言えばいいのに。なんでそんなこと言われなくちゃいけないのって、叫べばいいのに……脚も、口も、なにも動かない。
今、この瞬間になって初めて、知るなんて。
こんなに、巽が好きだったんだって、思い知らされるなんて。
待ってよ、巽。待って。
会いたかった。話をしたかった。
だけどやっぱり最後はケンカ。
なのに、嫌いだっていう気持ちよりも、好きだっていう気持ちのほうが大きい。
私はやっぱり巽が好きだったんだよ、
だからこんなにも悲しいんだ……。
いつから、好きだったんだろう。
もしも、もっと早くに自分の気持ちに気づいていたら、なにかが変わっていたのかな。
素直に巽と接することができたら、私たちの関係はどうなっていたのかな。
でも、もう手遅れなんだ。
私のことを嫌いな人を好きになるなんて。
今でもどこが好きかって言われるとわからない。そんな恋もあるんだって、初めて知った。
先のない恋。もうどうすることも出来ない。
でも、好きだっていう気持ちも、どうすることも出来ない。
気づいた途端に、この気持ちなんてなくなればいいのにって思う。
だったらもう、こんなに苦しむことはないのに。
もう、会いたくない。会わなければ……この気持ちもなくなるのかな。
でも、やっぱり会いたい。
泣いてもいいから、会いたい。
隣の家に住んでいるのに、なんでこんなに、遠いんだろう。