嫌いな男 嫌いな女



このままずっと会うことがなくなれば……声も聞かずに存在も忘れるように時間だけが過ぎていけば、なにかが変わるのかな、と思っていた。

けれど、隣に住んでいるからそんなの無理な話。


「巽んち行ってくる」

「今日巽くんのお母さんとね」


黙っていても隆太やお母さんが巽の名前を口にする。
……まあ、離れていたって、無意味だってことはわかってるけどさ。

高校に入ってから一度も会ってなかったのに、会った瞬間に好きだって思っちゃったんだもんね。


あの日から2ヶ月。
いつの間にか、秋になって肌寒い日々が過ぎていく。

……なんだかなあ……時間があればすぐにぼーっとしてしまう。
巽とケンカしたからといって私の日々は特になにも変わらないまま過ぎている。

っていうか、あんなケンカ、いつものことだし。
ケンカしたからってなにかが変わるわけじゃない。

ただ、少しだけ変わったとすれば……。


「なにしてんの」

「塾の帰り」


電車を降りたら巽に会うことが増えたってこと。
それと……ケンカをしなくなったということ。

受験が近づいて予備校に通いだした私と、クラブ帰りの巽の時間が一緒になることが多くなった。

会わないほうがいいっていうのに、よく会うようになるんだから、神様って相当意地悪だと思う。

巽は前のケンカなんてなんでもないような顔をしていて、私もそんなふうに接する。だからなのか、もうケンカをするようなことはなくなった。

適当に、記憶に残らないような会話をするだけ。


ケンカしない上に、話もして一緒に帰っているっていうのに……今までの関係よりも巽が遠くに感じる。

なんでだろうね。

< 168 / 255 >

この作品をシェア

pagetop