嫌いな男 嫌いな女
「巽はクラブ?」
「……いや、今日は休み」
言いにくそうな巽の表情で、沙知絵とデートだったのかと察することが出来た。
素直に言えばいいのに。
でも、それを指摘することはしない。
だって、聞きたくないし……。
なんて、薄っぺらい関係。薄っぺらい会話。
こんなことならケンカでもして文句を言い合う方がよっぽどマシだ。なんてね。
あの日から数日後、沙知絵から巽に告白したことを聞いたっけ。
ちゃんと付き合ってはいないらしいけれど、前向きな関係だとかなんとか。
毎日メールをして、電話をして、休みの日には出かけたりするらしい。
もしかしたら、今はもう付き合っているのかもしれない。
私は、といえば……なにも変わってない。
巽のことを好きだとわかった、とはいえ望みはない。だからって、すぐに大樹くんと付き合うこともできないまま。
“巽のことが、好き”そう素直に伝えて断ったけれど、大樹くんは“それでもいい”と言ってくれた。" 待ってるから、今はこのままでいさせて”と。
なんでそこまで私を思っているのかわからない。
ただ、それから、大樹くんと一緒に過ごすことが増えた。付き合ってはいないけれど……付き合っているみたいな関係だ。
大学も一緒のところに行こうという話もしているし。もしかして付き合っているのかな。そんなつもりはなかったけれど、でも、それでもいいかと思う気持ちもある。
一緒にいると、本当に大樹くんは優しくて楽しい。
大切にしてくれている気持ちが嬉しいと思うし、それに応えたいとも思っている。
このままそばにいたいと思う気持ちもある。
私の中で、徐々に大樹くんの存在が大きくなっているのもわかる。
なのに。
こんなふうに巽に会ってしまうだけで心が乱れて落ち着かない。
これってまだ好きってことなのかな。
もしくは、振られたから、気にしているだけかな。