嫌いな男 嫌いな女
「じゃあな」
「うん、じゃあね」
今までは、声なんてかけなかったのに、今はこんなに自然に口にできる。
……この薄っぺらい関係を続けるくらいならもういっそ、他人に、見知らぬ他人になりたい。なんで、隣にいるんだろう。
巽に嫌われているなら、どうでもいい存在であるなら、私も同じように思えたらいいのに。
部屋に入って窓をみつ。
この窓を最後に開けたのはいつだっけ? いつから、ここは閉められたままなんだろう。
毎日毎日同じことの繰り返しで、時間だけは確実に流れてゆくのに。わたしだけ、窓を閉めたあの日から、踏み出せないまま立ち止まって、自分を守ってばかりいる気がする。
どうやったら、踏み出せるのかな。
・
「巽くんと正式に! 付き合うことになりました!」
学校に着いて、駆け寄ってきた沙知絵が嬉しそうに叫んだ。
覚悟はしていた。それに、今更ショックを受けるような関係でもない。
「よかったね。っていうかまだ付き合ってなかったの?」
「まーなんだろ、ズルズルッて感じで。でも、昨日巽くんが東京の大学に行くつもりだって言い出したから、もう勢いで!」
へえーと言う由美子の隣で、返事ができなくなった。
……東京、の大学?
え? どういうこと?
「美咲?」
「え? あ、巽東京行くんだ。びっくりした。そっかーじゃあ沙知絵も東京?」
「んー、それは、ちょっとよく考えて決めようってことになったかな。私としては一緒に東京がいいんだけど」
うまく、笑えているだろうか。