嫌いな男 嫌いな女
巽が、東京に行く。
もう、隣の家にいることもなくて、もう、顔を合わせることもなくなってしまうんだ……。
そんなの、全然、知らなかった。
沙知絵には、相談をしたんだ。
まあ、それは……当然か。私に言わないことだって別に、当たり前のことだしね。うん。だって……なんの関係もないし、私たち。
でも、巽が、いなくなるんだ……。
隣の家に、巽はいなくなってしまうんだ。
考えたことも、なかった。巽が隣の家から、いなくなってしまうなんて。
呆然としていると、丁度ポケットの携帯がブルブルと震えて手にする。
『今日、放課後にいつものところで』
大樹くんからのメールに、なぜだかホッとした。
別に、いいんだ。もう、今更のこと。むしろ、私たちにとってはいいことなのかもしれない。
沙知絵と巽も、付き合った。
だからってわけじゃないけれど、ぎりぎりのところで踏みとどまっていたこの気持ちと、もいいい加減さよならしてもいいのかもしれない。
歩き始めたようになふりをして、逃げ出してる私と違って、みんな歩き始めている。
目をつむって、想像してみた。
大樹くんと一緒に過ごす私の姿。
それはとても自然に浮かんできて、笑顔でいっぱいの日々になるって迷いなく思える。
きっと、今までのように苦しんだり泣いたりすることはないんじゃないかな。
あの大樹くんの笑顔がそばにある。
それは、とても幸せなような気がする。
「いつまでも、このままじゃね」
ぽつり、と言葉を零した。