嫌いな男 嫌いな女
ふたりで、泊まり。
さすがに、その意味がわからないほど子供なわけじゃない。
そして、多分、いや絶対、この返事によって私と大樹くんの関係が決まる。
ドクンドクンと、体内の血液がすごい勢いで駆け巡って、脈拍が上がっていく。
ど、どうしよう!
いきなりの展開で……ど、どうしたらいいんだろう!
だ、だって一泊旅行って、やっぱりその、そういうことをしちゃったり、するんじゃないの!? 付き合ってもいないのに! いや、そういうことじゃなくて!
……そう。返事をしなくちゃいけない。
いつまでも、曖昧な言葉で曖昧な関係を続けてちゃいけないんだ。
「あ、いや! 無理にってわけじゃなくて……!」
「あの……!」
必死に話し始めようとする大樹くんに、私も応えたい。
そのために声を上げて、ぎゅっとスカートを握りしめた。
「りょ、旅行は……まだ、わかんない」
「あ、そ、そうだよね」
「親に、内緒にするために、由美子とかに相談しなきゃ、だし」
声のトーンを落とした大樹くんが、私の返事を聞いてすぐに顔をあげた。
恥ずかしくて恥ずかしくて、心臓が破裂してしまいそうなんだけれど!
「……遅くなったけど、えと、あの、よろしく……」
「っあ、ありがとう!」
「う、わ!」
勢いよく大樹くんに引き寄せられて、彼の腕の中にすっぽりと収まった。
ぎゅうっと強く抱きしめられて、息が! 息が苦しい……!
「た、大樹くん」
「あ、ご、ごめん!」
ぱっと体を離した瞬間に、気づく近い顔と顔。
胸が大きく跳ね上がり、痛くなるほどうるさく響く。
ゆっくりと、近づいてくる大樹くんの顔。
……ぎゅっと強く目をつむって、受け入れた。
一瞬だけの、キス。
こんなに、優しいキスは、初めてだ。
ファーストキスは、強引に、押し付けられたようなものだったっけ……。
顔を放してから、2人真っ赤な顔で照れ笑いをして、手を絡ませて駅まで向かった。