嫌いな男 嫌いな女
首をかしげると、巽は私をじいっと見つめたあと、めんどくさそうにため息をついた。
……なんでそんな態度されなきゃいけないわけ!
「ほんと、むかつく」
なにそれ。
なんでよ。
巽は急に真顔になって、窓を背にして私の方に体を向ける。
無言のまま、じっと、私を見つめながら。
……なんだか、機嫌が、悪い。なんか、怖いんだけど。なんなの急に……。
「な、に?」
「別に」
寝起きは機嫌が悪いとかなんだろうか。
じゃあなんで、部屋から出て行かないで、私をじっと見続けるの?
なんだか、私が緊張してきて、どくんどくんと体中で血液が流れる音が大きくなってくる。
目を背けたいのに、それもできないまま。
静かな部屋の中に、私の鼓動だけが鳴り響く。
向かい合ったまま、動かない巽と、動けない私。
2人きりで、部屋の中。
そう思えば思うほど、体中が石になったみたいに動かなくなる。そのくせ心拍数だけは忙しい。
ピンと張った糸のような緊張を、緩めたのは巽だった。
くすっと笑みをこぼして、その瞬間私の身体からふっと力が抜けるのがわかった。
「旅行って言ってたっけ。大樹と」
「……え、あ、うん……」
急に旅行の話になって、頭がついていけない。
一瞬気が軽くなったせいか、再び私を見た巽の冷たい視線が、私を凍らせた。
巽は私から目をそらして、棚の上に置いてあった袋を見る。
その中から、今日買ったばかりの数枚の下着が月明かりに照らされていた。
「下着買いに行くとか、やる気満々だな」
「そ、そんなんじゃ」
「下着買って、そんなつもりはありません、ってか。バカにしてるな」
そっけないどころじゃない。
つららが私に向かって伸びているみたいに冷たくて鋭い口調と言葉。
文句を言いたいところだけれど、言葉にできない妙な緊張感と、図星のせいで、ぐっと喉をつまらせた。