嫌いな男 嫌いな女
聞きたくない、聞きたくない。
そんなのどうだっていい、私には関係ない。
ぎゅっと目を瞑って、悔しさをこらえていると、顔を包まれる。
驚きに目を開けばそこに、巽の顔。
そして、唇に、暖かく柔らかい、もの。
なんだこれ、なにしてんだこれ。
……巽に、キス、されてるの? え? え?
呆然とそのキスを受け入れる。さっきまでの恐怖も緊張も一気にどこかに飛んでいって、足元がゆらゆらと揺れているような感覚になった。
……どういう、こと。
そして、そのまま口の中に入ってくる、なにか。
え!? え、ちょっとまって! なにこれ!
「ん! んー!」
理解できない状況に叫ぼうとしたけれど、顔を固定されたままで、押し付けるようにキスに、息をすることも、言葉を発することもできなかった。
くらくらする。
なにがなんだかわかんない。
力が入らないまま、巽の身体をどん、と叩くと、その反動なのか身体がぐらりと傾いて、ベッドに沈んだ。
天井の代わりに、私の真上にあるのは、巽の真剣な表情。
『なにするの?』
『離して』
『どいて』
声に出そうと思ったのに、声にはなってくれなかった。
心臓だけが激しく私を刺激して、現実なのか夢なのかもわからなくなってくる。
じっと私だけを見つめる巽の視線から、目が、離せない。
ねえ、なんなの。なんでなの。どうしたの?
ねえ、なにか話してよ、巽。
そのまま巽の顔が再び私に落ちてきて、もう一度キスをされた。
相変わらず強引なキス。そして最後に、優しいキス。
……やめて。
錯覚してしまいそうになる。夢を見てしまいたくなる。堕ちてしまいそうになる。
そんなキスはしないで。