嫌いな男 嫌いな女

聞きたくない、聞きたくない。
そんなのどうだっていい、私には関係ない。

ぎゅっと目を瞑って、悔しさをこらえていると、顔を包まれる。
驚きに目を開けばそこに、巽の顔。

そして、唇に、暖かく柔らかい、もの。

なんだこれ、なにしてんだこれ。
……巽に、キス、されてるの? え? え?

呆然とそのキスを受け入れる。さっきまでの恐怖も緊張も一気にどこかに飛んでいって、足元がゆらゆらと揺れているような感覚になった。

……どういう、こと。

そして、そのまま口の中に入ってくる、なにか。
え!? え、ちょっとまって! なにこれ!


「ん! んー!」


理解できない状況に叫ぼうとしたけれど、顔を固定されたままで、押し付けるようにキスに、息をすることも、言葉を発することもできなかった。

くらくらする。
なにがなんだかわかんない。

力が入らないまま、巽の身体をどん、と叩くと、その反動なのか身体がぐらりと傾いて、ベッドに沈んだ。

天井の代わりに、私の真上にあるのは、巽の真剣な表情。


『なにするの?』
『離して』
『どいて』


声に出そうと思ったのに、声にはなってくれなかった。
心臓だけが激しく私を刺激して、現実なのか夢なのかもわからなくなってくる。

じっと私だけを見つめる巽の視線から、目が、離せない。

ねえ、なんなの。なんでなの。どうしたの?
ねえ、なにか話してよ、巽。

そのまま巽の顔が再び私に落ちてきて、もう一度キスをされた。
相変わらず強引なキス。そして最後に、優しいキス。

……やめて。
錯覚してしまいそうになる。夢を見てしまいたくなる。堕ちてしまいそうになる。


そんなキスはしないで。

< 186 / 255 >

この作品をシェア

pagetop