嫌いな男 嫌いな女
……東京か。
ほぼ行くんだろうけど、まだ決めかねているのも事実だ。
なにに悩んでいるのかも自分でよくわかんねえけど……。第一希望なだけで、他の大学も受けるっていうのに。
わかってる。
沙知絵に東京に行くのかと言われたとき、もう割り切ったつもりだったけれど、まだ……美咲のことを考えているってことくらいは。
離れたくない、なんてバカな気持ちがどこかでブレーキをかけているんだ。
それを捨てて、沙知絵を選んだつもりだったのに。大丈夫だと思ったはずなのに、昨日のことでまた悩みだしているなんて、どーすりゃいいんだ。
っていうか沙知絵のことを好きじゃないなんて思ってないのにな。
うるさいときはあるけど、一生懸命で、まっすぐで、好きだなとか、かわいいなって思う。
美咲が俺の中ででかすぎるんだ。
いっそ本気で嫌いになりたいのに、嫌いになれない。
だけど、心のどこかでは嫌いだって思っている。しかも、それが……俺のことをなにも考えてないだろう美咲への、八つ当たりみたいな感情で。
・
「今日なんかあった?」
「え? あ、いや……勉強疲れ、かな」
ぼーっとしていると、沙知絵に声をかけられた。
喫茶店で頼んだホットコーヒーは一口飲んだだけなのに、もう冷め切っている。
会ってからなに喋ったのか覚えてねえや……。
首を傾げる沙知絵に笑ってみせると、ちょっと心配そうに「そっか」と言われた。
「私、やっぱり東京行こうと思うんだけど」
「……え? いや、まだ早いだろ」
「なんで?」
なんでって言われると、よくわかんねーけど。
「巽くんは……東京に、決めたんだよね」
多分。
うまく返事が出来なくて黙っていると、沙知絵はそのまま話を続けた。