嫌いな男 嫌いな女
「この前……付き合ってくれるならちゃんと、自分の進路考えるって言ったけど……私やっぱり、離れたくない」
その気持ちは、嬉しいと思う。
だからこそ、俺は沙知絵と付きあおうと思った。
東京に行くと何気なく沙知絵に告げたときに“私も”と躊躇なく答えた。
——『まだ……望みがあるなら、今ここで離れたくない』
そんな台詞を、迷いもなく口にできる素直さと、一途さ。
俺に持っていないものに惹かれているのは事実だ。
——『望みがあるなら私は諦められない』
なんでそんなに頑張れるんだろうって。
俺だったらもうとっくに諦めてる。俺みたいな中途半端な男のどこがいいのかもわかんねえ。
だけど、口調ははっきりしているのに、涙目の沙知絵は、本当にかわいいと思った。
だからこそ。
付きあおうって思ったんだ。
その気持ちはウソじゃない。
だったら、付きあおうと口にしたのは俺だ。
それを聞いて、涙を零した沙知絵を、抱きしめたのも俺だ。
でも……なんでだろう。
こうやってマジについてこようとする沙知絵に、俺は素直に喜ぶことが出来ない。
不安そうに俺を見る沙知絵から思わず目をそらして、しばらく考えた。
「……まだ、決めるのは早いだろ」
「でも」
「もうちょっと考えろ。別に東京来るのは止めねえから」
キレイごとを言っているな、と自分で思った。
別に来るなとは思ってない。けれど……沙知絵と同じように“一緒にいたい”と思ってないくせに。
どっちでもいい。
ただ、“俺”を基準にして進路を決められることに対して少し、重圧も感じている。
それをうまいことごまかして笑ってみせる俺は、やっぱり最低だ。