嫌いな男 嫌いな女

「……わかった」


少し唇を尖らせて、呟く沙知絵。
そんな彼女の頭にぽんっと手をのせて「ん」と小さく返事をする。

素直なところはやっぱり、かわいいなって思う。
拗ねるときに長い髪の毛を弄るところも。


「じゃ、どっかいくか?」


いつまでもここで話するのもな。
正直あんまり頭がまわってねえし……。ぼーっとできること、映画とか行くほうがいいな。

目の前のコップの中身を飲み干してテーブルに置くと、沙知絵が「あの」と珍しくおどおどと話す。


「……巽くんの家、行き、たい」


顔を真赤にさせて、意を決したように口にする。
その意味がわからないほど、俺だって鈍感じゃない。


「え?」

「だめ……?」


だめ、とかじゃねえけど……。
普通にテレビとかゲームとか見て終わり、って言う訳じゃないだろ?

黙っていると、どんどん沙知絵の顔が曇っていく。

確かに……俺達は付き合っているわけで。
そりゃ、家に行ったり家に来るのは普通だろう。別におかしなことはない。

ただ、昨日あんなにばかみたいなことをしたっていうのに、次の日にこんなの……さすがに節操が無いというか、最低すぎないか?


でも。


「あー、んじゃ、行くか?」

「うん……!」


俺が返事をすると、沙知絵はホッとしたように笑って勢いよく返事をする。

そう、別におかしなことじゃない。
沙知絵が、不安に思っていることも、わかっている。

そうさせているのは俺だ。

幸い、今日は確か渚はバイト。おかんもこの時間ならパートに行っている時間だと思う。いたらいたらで、それでもいいか。
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