嫌いな男 嫌いな女
緊張のせいなのか、沙知絵はあんまり口数が多くなく、俺もどんどんいろんなことを考えてしまってうまく返事ができないまま歩く。
次第にお互い無言になって家に向かっていた。
なにも思わないわけじゃない。だけどなにも思いたくない。
「ここ」
家の前でそう言って、鍵を開けてから沙知絵を招くようにドアを大きく開いた。
鍵がかかっていたってことは、やっぱり今家にはだれもいないんだろう。
そのことにホッとしたのは……俺も、期待しているからなんだろうか。
「お邪魔します……」
遠慮がちに家に入る佐知子を見て、そのままなにも言わずに自分の部屋に向かった。リビングでなにか出そうにも、俺なにもしらねえし。
あとで冷蔵庫からジュースだけ運べばいいか。
無言で俺の後ろをついて歩く沙知絵は、部屋に入ってきょろきょろと周りを見渡した。
「意外と、きれいだね、部屋」
「まあ、寝るだけの部屋みたいなもんだしな」
とりあえず、制服を脱いで、部屋着に着替えている間、佐知子は落ち着かない様子で部屋の中をうろうろする。
「……これ、なに? ゴミ?」
「え?」
佐知子が足を止めて、部屋の片隅にある段ボールに手を伸ばすのが見えた。
「——さわんな!」
佐知子の伸ばした手を、思い切りつかんで声を上げた。
驚きよりも先に、痛みで顔を歪めた沙知絵に、ハッとして手を離す。
「あ、わり……」
「ううん、あの、私も勝手に、ごめん」
申し訳無さそうにする沙知絵に、罪悪感で胸が傷んだ。
……なにしてんだ、俺。
「適当に、座ってて。なんか飲みもん持ってくる」
目をそらして、逃げるようにリビングに向かう。
冷蔵庫からお茶を取り出してグラスに注いでから、深い溜息がひとつ落ちた。