嫌いな男 嫌いな女
「た、つみ、くん?」
沙知絵が、驚いた顔で俺を見た。
その瞬間になって、初めて、自分が泣いていることに気がついた。
……なんで、泣いてんだ、俺。
「ど、した……の」
「な、なんでも……」
慌てて涙を拭って顔を隠す。
それでも、どうしても美咲の顔が頭のなかで俺を見つめていて、どうしても、どうしても、涙が止まらない。
「ごめ、ん」
「なにが?」
「——ごめ、ん」
だって、違う。美咲と違うんだ。
なにもかもを美咲と比べてしまって、比べる度に美咲を思い出して、美咲を探してしまうんだ。
目の前にいる沙知絵を感じる度に、“違う”って、思ってしまう。
俺の好きな、美咲じゃない。
「ごめん……ごめ、ん」
「やっぱり……昨日、美咲となんかあったんでしょ?」
美咲の名前にびくりと体が震えて、沙知絵は自嘲気味に笑いながら体を起こして、衣服を整え出した。
「今日、美咲1日ぼーっとしてた。泣きはらした顔してた。やっぱり、巽くんが原因なんだ」
「……あ」
なんて、言えばいいだろう。
俺のせいだと言えばいいのかもしれないけれど、美咲がなにもいってないってことは、知られたくないことなのかもしれない。
言い淀んでしまうと、沙知絵は俺の顔をパンっと勢いよく両手で包んむ。
「私のこと、見てないのね……やっぱり」
沙知絵の瞳に涙がたまっているようにみえるのは、俺が泣いているから?