嫌いな男 嫌いな女

「た、つみ、くん?」


沙知絵が、驚いた顔で俺を見た。
その瞬間になって、初めて、自分が泣いていることに気がついた。

……なんで、泣いてんだ、俺。


「ど、した……の」

「な、なんでも……」


慌てて涙を拭って顔を隠す。
それでも、どうしても美咲の顔が頭のなかで俺を見つめていて、どうしても、どうしても、涙が止まらない。


「ごめ、ん」

「なにが?」

「——ごめ、ん」


だって、違う。美咲と違うんだ。
なにもかもを美咲と比べてしまって、比べる度に美咲を思い出して、美咲を探してしまうんだ。

目の前にいる沙知絵を感じる度に、“違う”って、思ってしまう。


俺の好きな、美咲じゃない。


「ごめん……ごめ、ん」

「やっぱり……昨日、美咲となんかあったんでしょ?」


美咲の名前にびくりと体が震えて、沙知絵は自嘲気味に笑いながら体を起こして、衣服を整え出した。


「今日、美咲1日ぼーっとしてた。泣きはらした顔してた。やっぱり、巽くんが原因なんだ」

「……あ」


なんて、言えばいいだろう。
俺のせいだと言えばいいのかもしれないけれど、美咲がなにもいってないってことは、知られたくないことなのかもしれない。

言い淀んでしまうと、沙知絵は俺の顔をパンっと勢いよく両手で包んむ。


「私のこと、見てないのね……やっぱり」


沙知絵の瞳に涙がたまっているようにみえるのは、俺が泣いているから?
< 196 / 255 >

この作品をシェア

pagetop