嫌いな男 嫌いな女

「私をだれだと思って抱こうと思ったの?」


……その答えを、口にすることはできない。
無言が答えだってことも、わかっているけれど。


「だれと違うって思ったの?」


ぼろりと、大粒の涙が沙知絵の瞳からこぼれた。


「私のこと好きじゃなくても、私を見てくれるって、信じてた。けど……やっぱり違ったんだね。私のことなんてどうでもいいんだ」


そうじゃない。そんなつもりはなかった。
だけど、そんなこと口にしたってなんの意味もない。


「……最低」


ほんっと、最低だよ、わかってる。


「言い訳くらいしてよ! お前がしつこかったからって! そういえばいいじゃない!」


ボスっと枕を投げつけられて、それでもなにも言わない俺に、沙知絵はバタバタと部屋から、家から、出て行った。

……そうじゃない。沙知絵のせいじゃない。
俺が、あいつに思わせぶりな態度をしたからだ。どうしても無理だって、言えばよかったんだ。断り続ければよかったんだ。はっきり、口にすればよかったんだ。


それをしなかったのは俺だ。



「ふーん、巽ってば、いいご身分じゃない?」


部屋の開けっ放しになっていたドアをコンコン、と叩くと同時に渚の声が聞こえた。


「え!? は!?」


な、なんでここに渚が?
っていうかいつから家にいたんだよ!

いきなりでさすがに涙が止まった。
なにもかもお見通しというような顔つきに、血の気が引いていく。



「さっき帰って来たのよ、あんたらがちょうどいいムードのときにね、聞こえなかったみたいだけど。彼女連れ込んで、やらしーことして、そんで逃げられたって?」

「——……ちげーよ!」


そんな単純ならどんなけよかったか。


「じゃあ、他の女の身代わりに抱こうとして、ばれて逃げられた?」


体がびくんと跳ね上がった気がした。
……なんで、こんなに察しがいいんだよ……!

口をぱくぱくさせるだけの俺を見て、渚がはあーっとこれ見よがしな溜息を落としてから部屋の中に入ってくる。
俺の座り込んでいるベッドにドスンっと座って俺をじっと見つめた。
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