嫌いな男 嫌いな女
「わかってたの、巽くんが美咲のことを忘れられるはずがないって。だけどどーにかしたらどーにかなるんじゃないかと思って、困らせてきたこともわかってる。美咲にも……」
話し始めると、どんどん泣きそうになる沙知絵に、思わず目をそらしてしまった。
違う、沙知絵のせいじゃない。
俺が、悪いんだ。意地になって、逃げまわって、避けていた俺が悪い。そんなことで解決するはずなかったのに。
「ちょっとは殴りたい気分だけど!」
「殴っていいよ」
「殴らないよ。痛いもの」
ふふっと笑って、カフェオレを飲み干した。
好きだった。本当に、沙知絵のことを好きだって思ってた。
それが、恋愛になることはなかったけれど、俺にはないものをたくさんもってた。素直なトコロとか、優しいトコロとか。
友達として、好きだった。
そんなこと、今、俺には口には出来ないけれど。
きっとそんな言葉、聞きたくないだろう。
「美咲には、言わないの?」
「……あ、ああ……実は言った、ような」
「なにそれ、どっちよ。大樹くんと旅行なんだよ? 気にならないの?」
気にはなるけれど……仕方ないっつーか。
美咲が、大樹を好きなんだったら、俺にはどうしようもねえ。笑って過ごせるのが大樹となら、それでいいと、思う。
ちょっと強がっているけど。
「……ほんと、ふたりとも意地っ張りなんだから」
諦めたような口調で呟いてから、沙知絵が席を立った。
それを見上げていると、くすっと笑われる。
「美咲は、巽くんと同じくらい意地っ張りで弱虫だから。根気よく付き合わないとホンネなんて言ってくれないよ?」
そう言ってから「じゃあ、帰るね」と言って踵を返した。