嫌いな男 嫌いな女
涙を一生懸命堪えて、はっきりと口にする。そのくらいはしなくちゃいけない。大樹くんに言わせちゃいけない。そう思ってまっすぐに大樹くんを見ると、寂しそうに微笑んで。
——『やっぱり、泣いてくれないなあ』
そう言った。
意味がよくわからない私の顔を見て、くすっと笑ってから『ありがとう』と言ってくれた。
最後まで本当に優しかった。
そんな人にこんなことしか出来ない自分が情けなくて仕方ない。
そんなことをゆっくりと話し終えると、由美子はなにも言わずに私の肩に手を添える。
沙知絵は黙ったままで、「ごめん」とつぶやくと、はあーっと大きなため息を落とした。
「んじゃ、私からも報告」
すっくと立ち上がって、私と由美子を見下ろす。
怒られても、なにを言われても仕方ない。そう思って唇をきゅっと閉じて見つめた。
「巽くんと別れました」
……え?
「もー付き合ってらんないよねえー。もう無理無理。ほんっと面倒くさいんだから」
「え、いつ?」
呆然とする私の代わりに、由美子が問いかけると「昨日」とまた驚くような返事をした。
ど、どいうこと?
なんで、そんな展開になっているの?
「ごまかして、頑張ってみたけど無理だった。巽くんには他に好きな子がちゃんといたから」
ズキッと、私の心臓から音が鳴ったんじゃないかと思った。
「美咲も、もう、わかってるんでしょ?」
「……で、も」
でも、でも。
本当は心のどこかで、もしかしての気持ちが膨らんでいるのがわかる。
あの日、どうして私に『行くな』って言ったのか。
『冗談なんかじゃなかった』と、そう言った意味は。
渡されたあのネックレスに、込められた巽の気持ちは。