嫌いな男 嫌いな女

ああ、ほら。
やっぱり俺があげたネックレスだ。


「なあ、なんで?」

「し、知らない!」


あんまりにも真っ赤で、初めて見るような顔で、それが、なんか可愛く見えて吹き出してしまう。
なんで? なんて……ほんとは聞かなくてももう、わかっているのに。
拗ねて意地を張る美咲が可愛くて、何度でも聞きたくなる。

なあ、もううぬぼれてもいいよな。
もう、いいんだよな。


「お前さ」


そう言いかけたときに、顔面になにかが飛んできた。


「いっ……! お前! 俺が怪我してんの見えてんだろが!」

「うるさい! ばか!」


お前に言いてえよ。
俺怪我してんだっつの! なに投げてきたんだよこのバカは!

かろうじて掴んだままの美咲の腕をぎゅっと掴む。


「は、なして」

「無理」

「離して、よ」

「無理だって。嫌だし。絶対、離さない、こないだみたいなのはもうイヤだから離さない」


何度も掴んでは離して、すれ違ってばっかりだったから。
もう離してなんてやんねえ。

離す度に後悔したから、もう、絶対離さない。


「変態」

「……なんでだよ」

「離してよ」


そう言いながらも、美咲は手を振り放そうとはしなかった。



「うるさい、お前」



顔が赤い美咲。
怒っているけど、多分本気じゃない。
嫌だって言ってるけど、多分、嫌がってない。
だってこいつは、意地っ張りで、頑固で、あまのじゃくだから。


だから、多分、俺のうぬぼれは、当たっているんじゃないかなって思うんだ。


こつんとおでこをぶつけると、美咲が「いたい」と言ってくすっと笑った。


俺は、美咲のこういう顔が、ずっと見たかったんだ。
イチゴみたいな色から、桃みたいなピンク色に染まった頬。

それを見て俺も思わず微笑んでしまって、美咲はちょっと驚いた顔をした後に、同じように微笑んだ。


そして、ゆっくりとキスを、した。



多分、俺達にとって、初めてのキスになる。
何度もしたけど、生まれて初めてのキスみたいに、胸がバクバクうるさかった。
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