嫌いな男 嫌いな女

『私たちの延長戦』




キスってこんなに、嬉しくて幸せなものなんだ。

巽と重なりながら、そんなことを思って、涙が出そうになった。
目をつむって、受け入れたのは初めてだった。巽がこんなふうに優しく私に触れることも、初めてだ。

微笑んで、こんなふうに近づける日が来るなんて。

そんなことを思いながらキスを受け入れていると、ゆっくりと唇が離れていく。
ぼんやりと巽を見ていると、目があってくすっと笑われた。


「な、に?」

「いや、初めて怒られなかったなと、思って」


……そ、それはそうだけど。
だって今までは……。

真っ赤な顔をしているのが自分でわかる。恥ずかしくて仕方ない。
口をパクパクさせてなにか反論しなきゃ! と思っていると、ぎゅうっと巽に抱きしめられた。

髪の毛に、首筋に、巽の息がかかる。
目の前にある巽の胸。
そっと手を上げて、巽の体に触れると、すごくすごく、温かい。

……夢を見てるのかもしれない。
こんな気持ちで、こんなふうに、巽に抱きしめられているなんて。

ずっと傍にあったのに、ずっと手に入れられなかったもの。見つけられなかったもの。


意地を張って、文句とケンカばかりだった。

一歩踏み出したら……こんなに幸せな気持ちで、巽と抱き合えるなんて。


やっと、やっと隣に並べた気がする。


手に力を入れて、ぎゅうっと抱きしめる。
力を抜いたら、すぐにどこかに行ってしまいそうな気がしてしまうから。


しばらく無言で抱きしめあって、ゆっくりと体を離した。
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