嫌いな男 嫌いな女
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高校三年生の夏休みは、なんでこう勉強漬けにならなければいけないんだろう。
窓の外は真っ青な空が広がっているって言うのに、クーラーの効いた部屋にこもっているなんてばかばかしくてやってられない。
それに加えて……。
ちらりと視線を前に向けると、マンガを読んでいる幼なじみ。いや、彼氏、なんだっけ? うん、多分彼氏。
つきあおうとか、そういう台詞は口にしていないけれど、多分両思いの、彼氏。多分ばかりなのは、毎日好きかわかんなくなるし、毎日こいつはなんで私と一緒にいるのかもわからなくなるからだ。
10年以上も隣に住んでいたっていうのに……こいつ、巽のことだけは本当にわからない。
そもそも今日一緒に勉強でもするか、と言い出して部屋に呼んだのは巽なのに、当の本人は勉強し始めて30分も経たないうちにマンガを読み始めた。
そしてかれこれ1時間が経とうとしている。
「……勉強しないの?」
「んー、これ読んだら」
「合格圏内だからって、余裕ぶっこいて、嫌がらせ?」
話もしないでマンガを読み続ける男に苛立ちが我慢の限界に達したのは1分ほど前のこと。
私の嫌みに巽はめんどくさそうな顔を私に向けてから、はあっとため息を落とした。ため息をつきたいのは私の方だ。
推薦入試でほぼほぼ合格だろうと言われている巽と、未だ進路がまだ決定していない私。焦っているのは私ばかりで、悩んでいるのも私ばかりのような気がしてくる。勉強だってなんのためにしているのかわからない。
むすっと参考書とにらめっこしていると、巽がひょいっとそれを取り上げた。
「なにするのよ」
「お前さー、そんな怒ってばっかりで疲れねえの?」
……だれのせいで怒ってると思ってるのよ。
だれのせいで……悩んでいると思っているのよ。
じいっと口をへの字にして巽を見ていると、巽は参考書をぱたんと閉じて机の上に置いた。
「俺が、東京行くのがそんなに気に入らねえの?」
「そういう、わけじゃない」
でも、悩んでいるのはそのことだ。