嫌いな男 嫌いな女
巽が推薦で受ける大学は東京。はじめは一般入試で受ける予定だったのに、急遽推薦枠を先生に勧められたとかで、さっさと進路を決めた。
理系に強い大学らしく、電子部品とかなんかそんなよくわからない関係の仕事に就きたいとか。
巽が東京に行くって言うことも、私を悩ませているひとつ。けれど、それ以上に……巽はやりたいことがあって大学を選んだって言うのに、私はつまらないことに悩んでいるって言う自覚と焦り。
「どうしたらいいんだろう……」
「好きにしたらいいっていってんじゃん」
巽はそればっかりだ。
東京に来いとも言わないし、来るなとももちろん言わない。
まあ、どっちも言われたら困るんだけどさ。それでも、毎回同じ台詞ばかり。ボキャブラリーがなさすぎる。あと優しさ。気遣い。
そんなものこいつに求めるのは酷か。
「そう言われても、決められたら決めてるし」
「だからって俺に言われてもわかるわけねえだろ」
巽は……本当に私のことが好きなんだろうか。
もうちょっとほら、恋人らしい台詞とかあるんじゃないの? 少女マンガみたいに“俺に着いてこい”とか“俺のそばにいろ”とかさ。
……巽がそんなこと言うなんて想像できないけど。
「別に東京来てもいいけど、なんの目的もねえなら、俺かまってやれる自信ねえよ」
だれもそんなこと望んでないし。
だれもかまってくれなんて言ってないじゃない、自意識過剰か。
むすーっとしながらシャーペンをいじる。
私も巽も無言のまま、なんだか居心地の悪い時間を過ごしていた。
なんで、こんなふうになっちゃうんだろう、私たち。
半分は私が悪いのはわかってる。巽相手に素直になるのが難しくって、つい意地を張ってしまうんだもん。
でもさー。
もうちょっと優しい言葉をかけてほしいと思っちゃう乙女心よ!
悶々と考え込んでいると、すーすーと寝息が聞こえてきて、思考が止まる。
え? え?
顔を上げれば、いつの間にかベッドに横になって巽が気持ちよさそうに眠りだしていた。