嫌いな男 嫌いな女
なんなのいったい!
人がこんなに悩んでいるって言うのに……この男! どんなけ無神経なの!
近づいて見下ろすと、それはそれは気持ちよさそうな顔をして眠っている。
一発殴ってやろうか、とそばにあった本を手にしてから、ため息を吐き出してそばに腰を下ろした。
バスケの本。バスケのマンガ。本当にバスケが好きなんだなあ。
大学を東京のに選んだ理由の一つに、バスケが強いというのもあるらしい。もちろん、そんな有名なところではないけれど、趣味よりももう少し、力を入れてできるとか。
あの、チビだった巽が、バスケなんて、なあ……。
高校でもずっとやっていたらしいし、そこそこ注目されていたらしい。
そんなの私は、全然知らなかった。バスケやっていることしかしらなかった。
ずっと、そばにいたのに、巽のことって全然知らない。知っていることよりも知らないことのほうがずっと多い。
付き合ってからも……なんか、よくわかんないし。
前よりケンカとかは減ったと思う。
会って話をすることも増えたし、こうやって、どちらかの部屋にいることもある。たまにメールとかだってする。だけど……なんでだろう。
なんか、不安で仕方ない。
そばにいるのにこんなに不安になるんだもの。もしも……離れてしまったらどうなってしまうんだろう。
せっかく、近づけたのに。
デートらしいデートも、そういえばまだしてないもんなあ。
っていうか、したいっていう気持ちはあるのに、いざ巽とってなると、気恥ずかしくてどうしていいのかわかんなくなっちゃう。
お互いの両親も、私たちが急に仲よくなったからひやかしてくるけれど、“付き合っている”なんて口にできないし……。
「なんだかなあ」
あんなけ遠回りして、やっと思いを伝えたっていうのに。もっとキラキラするんじゃないかと思っていたのになあ。
まあ、私たちがそんな世の中の恋人同士みたいになるなんて無理な話か。想像できないし、想像したらなんかぞわぞわしちゃうもの。