嫌いな男 嫌いな女

……本当は、地元の大学でほぼ私の気持ちは固まっている。
外国語大学で、英語をもっと勉強したい。留学とかも多いみたいだし、あこがれはある。

ただ、それだけが目的ならば、東京にだってあるだろう。
離れたくないと思っているのに、東京に行く決心がつかないんだ。

自分のことなんだから自分で決めろというのも正しい。


ただ、なんでもいいから気持ちを教えて欲しいっていうだけ。


ねえ……離れても大丈夫なの? 好きでいてくれる? 私は好きでいれる?

相変わらずな関係で、自信が持てない。
今はそばいるから、いつでも会えるけど、そんなに簡単に会えなくなるんだよ? ずっと隣にいたのに。もう簡単に会えなくなっちゃうんだよ?

あんたは平気なの?


なんて、心のなかで問いかけたって返事なんてあるわけがない。


すやすや寝続ける巽を見るたびに、なんだかむかっとくるし、帰ろうかなーもう。

なんでこんなに無神経なんだろう。私のことを考えてるのかこの男は。
ああ、もう泣きたい。
意味わかんないけど。


「また泣いてんの、お前」



唇を噛み締めた瞬間に、巽の声が聞こえた。
顔を上げると、ふわあっと欠伸をしながら私を見つめてくる。


「起きてたの?」

「意識飛んでたみたいだ」


寝てたって言うんだよそういうのを。


「よく涙が涸れねえなお前は」


……他に言い方ないのかな、この男は。

『淋しい』
『かまって』
『そばにいて』

その言葉を、口にしたくなる。
言っちゃいけないってわかってるんだ。東京に行ってほしくないっていうのがわがままな私の気持ち。

東京に自分は行かないくせに、そばにはいてほしいなんて、わがまま。
巽は巽の夢のために進んでいるのに、邪魔なんてしちゃいけない。

だから口を噤んでいると、どんどん口にできる言葉がなくなってきてしまう。
< 239 / 255 >

この作品をシェア

pagetop