嫌いな男 嫌いな女
「俺にどうして欲しいの?」
「どうもしてほしくない」
ただ、ただ、寂しいだけ。
そんなこと言ったら困るだけだって知ってる。
「帰るね」
このままここにいたら、なんだかダメだ。めちゃくちゃになってしまう。八つ当たりしてケンカになるかもしれない。
ちょっと落ち着こう、と腰を上げて窓の方に向かった。
「ちょっと待て! なんで玄関使わねえんだお前!」
言うと思った。
私を慌てて引き止める巽が、肩を掴んでくる。
なんでこんなに窓から行き来することを嫌がっているんだろう。自分は窓から来るくせに。
「だって窓から来たんだから靴ないもん」
「貸すから玄関から帰れって」
「えー……」
めんどくさそうに言うと、巽がどんどん呆れた顔つきになってくる。
いつもならこのへんで手を離してくれるんだけれど、今日はなんでだか、離してくれない。
「とりあえず、ちょっと待て。話、まだ終わってねえだろ。えーっとなんだっけ? 進路か。めんどくせえからもう今決めろ」
「面倒くさいってなに!? 人の悩みに……」
「だって俺の進路じゃねえし」
そうだとしても言い方ってもんがあるでしょう!?
ほんっと無神経だ。アイスどっち食べようかなーっていうレベルの悩みじゃないっての!
なんで悩んでると思ってるのよ。離れたくないから悩んでるんでしょ?
離れちゃうんだよ。巽は寂しくないの? そばにいたいとか、思ってくれないの?
離れてても大丈夫なの? 離れてそのうち心も離れちゃったら、それも仕方ねえなとか言うんじゃないでしょうね。
どう思っているのかわからない。
せめて、なにか、確かなものを私に頂戴よ。
吐き出したい気持ちを堪えていると、涙がじわじわとあふれだす。
ああもう、泣きたくないんだってば! なのにどうしてこう、巽と話していると泣き虫になっちゃうんだろう。