嫌いな男 嫌いな女

黙ったままでいると、巽がぽんぽんっとベッドを叩いて私を呼ぶ。
犬じゃないんだから、そんなふうに呼ばないでよ……行くけど。

腰を上げて、そばに近づくと、巽が私の手を引いて、ベッドに座らせた。巽は体を私の方に向けている。


「……こっちの大学に行きたい。遠くに、行きたくない。でも、……離れたく、ない」


初めて思いを口にする。
ぼそぼそと話した言葉に、巽は「ん」と軽く返事をしてから「じゃ、残れ」とはっきりと言った。


……なんでそんなにあっさり言うんだろう。

やっと思いが通じたのに、なにも進まないまま離れちゃうんだよ


「いやだ」

「……あのな……」


手元にあった枕を巽の顔面をめがけて投げつけた。

ほんとになんでそんなにあっさりしてるのよ!
なんでそんなんなのよ。


「ちょ、おい!」


死ね。
枕で死ね。



「あんたはなにも分かってない……!」

「なにが?」

「私の気持ち考えてない! 私の気持ちを分かってない!」


私ばかりが好きなんじゃないって思えてしまう。
なんでこんなに悩んでいるのか、ちっとも考えてくれてないじゃない! 口にしたのにあっさりそんなこと言いやがって!

いら立ちを枕にぶつけてバシバシと何度も巽の頭を叩いた。


「お前が言いたいこと言わないで分かる分けないだろ? 言わずに気持ちが通じると思ったら大間違いだよ、ばかじゃねーの?」



ぐっと詰まると、私の手を取って、枕と一緒におろした。
そして、私を真っ直ぐに、見つめてくる。真剣な眼差しが私を捉えて離さない。


「不安なのか?」

「……うん」


口にすると涙も一緒に溢れだした。
不安なんだよ、怖いんだよ。また、すれ違ってしまったら。また……会えない日々を過ごすのが。
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