嫌いな男 嫌いな女
「だー、泣くな、泣くな泣くな」
「だって! 巽が!」
「悪かったよ! はいはい悪かった! だから泣くな」
「そーいうふうに言わないでよ!」
じゃあどう言えばいいんだよ!
頭をガリガリとかいて、一旦落ち着くと深呼吸をする。
「とりあえず、あー、ブラつけろ」
「ブラとか言わないでよ。変態。こっち見ないでよ!」
はいはい、見ませんよ。
見たらもっかい襲いそうだからな。襲いたいけど。次やったらマジで泣かれるだろうし、殴られる。
あーああもう。
はあーっとため息を落としながら美咲に背を向ける。
カチカチと音がするから気になって仕方ねえ。さっさとつけてくんねーかな。
「できたー?」
「うるさいな! 黙っててよ」
はいはい悪うございました。
やっと付けたのか、音がやんで、美咲が「いいよ」とそっけない言い方で俺に呼びかける。
振り返ると、美咲が正座して俺を見ていた。
「……怒ってる?」
「怒ってるわけじゃねえけど」
「怒ってるじゃん」
「怒ってねえ」
あぐらを組んで、ベッドにもたれかかると、美咲が正座のまま俺に擦り寄ってくる。
こいつ、マジでなんなの。襲って欲しいの?
「東京に、行くときは、準備する。から、ごめん。無理」
ですよねー。
あーあと半年も禁欲生活かよ。
諦めて「いーよもう」と返事をすると、美咲が少ししょんぼりとする。
普段口が悪いくせに、すぐ怒るくせに、たまにふっと素直になる。
それが、すげえかわいいって俺が思ってることを、こいつは知らないんだろうな。
っていうか、こいつほんとに俺のこと好きなんだよな。
いや、わかるんだけど、じゃあなんで? って気持ちもある。