嫌いな男 嫌いな女

「……帰る」

「おー帰れ帰れ!」


もう知らん。なにがそんなに気に入らねえんだよ。
頬をふくらませる美咲が俺を睨みつけてきて、俺はふいっとそっぽを向いた。


「好きだったらやりてえーっつの」


ぼそっとつぶやくと、美咲がどすどすと歩いていた音が止まった。
なんだよ、まだ文句があんのかよ。

そう思いながらちらっと美咲を見ると、ぽかんとしている。


「なに」

「……もっかい言って」

「は?」


なに言ったっけ?
怒られるようなことは言ってねえと思うけど。

首を傾げると、美咲が再び俺のそばに近づいてくる。

なにを言われるんだと身構えると、美咲はしゃがんで俺の顔を真剣に見つめる。


「なに」

「もう一回、言って欲しい」

「……好きだったら、ってやつ?」


必死に思い出しながらそう告げると、美咲はしばらく動きを止めた後、嬉しそうにはにかんだ。

……え? なんだ?


「……私も、好きだから」


は?



「好きだから、まだ、無理だけど……。もうちょっとだけ、待って欲しい……」


いつまで? と口にしかけたけど、やめた。
いらんことを言ったら、この素直な美咲がすぐに怒りだしてしまいそうだから。

手を広げると、素直に美咲が俺の中に入ってくる。

好きだっていうなら、仕方ねえ。待っててやるよ。
……まあ、半年が限度だけど。できたら引っ越しのときに来て欲しいけど……。

仕方ねえから、お前のタイミングとやらを、待ってやるよ。


視線を合わせると、自然と唇を重ねた。

たしかにまあ、こんなふうにキスするほうがいい。寝込みを襲うよりもよっぽど幸せな気持ちにはなる。

抱きしめると美咲も俺の背中に腕を回して力を込める。


こんなふうに、やれたら、確かにもっと、いいだろうな。
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