嫌いな男 嫌いな女
隆太は「姉ちゃんずるい!」と言っていたけれど、もうひとつの部屋を見て十分満足したらしい。部屋の大きさは一緒だし、隆太も嬉しそうに部屋の中を駆けまわっていた。
新しく買った家具だけが部屋の中にあって、他にはなにもない。
ああ、早くここを自分の部屋にしたい!
「荷物は? 荷物はいつ届く!?」
「もうすぐ引越し屋さんがくるから、先に挨拶行くわよー」
私と隆太を嬉しそうに眺める両親に問いかけると、時間を確認してからそう言って階段を降りていった。それに続いて私も1階に降りる。
少しだけリビングを覗くと、これまた広くて、お母さんはキッチンを見て嬉しそうにいろんな棚を開けては閉めていた。
「美咲、隆太ー」
玄関からお父さんが私たちを呼んで、慌てて駆け寄る。
お母さんに手にはいくつかの紙袋。
「お母さん、私の服変じゃない?」
「なに言ってるの。変なわけないでしょ」
「ねーちゃんがスカートとか変なのー」
「うっさい!」
緊張してきて自分のスカートを持ち上げてお母さんに問いかけると、横から隆太がチャチャをいれてくる。
確かに自分でも変な感じだけど!
いつもはズボンばっかりだもんなあ。髪の毛もショートカットだし……。挨拶に行くからってお母さんに無理やりスカート履かされたけど、やっぱり変じゃないかな。
男の子に間違われてばっかりなのに……。
かわいいスカートなんて足元スースーしちゃうし、なんだか慣れない。
「今日から隣に越してきた澤田です」
「ご丁寧にどうもすみませんー。よろしくねえ」
隣に住んでいたのはお父さんよりもう少し年をとったおばさんだった。
緊張気味に「よろしくお願いします」と隆太とふたり頭を下げると、おばさんはにっこりと微笑んでくれた。
「行儀のいいお子様ですねー。かわいいお姉ちゃんと、活発そうな弟さん。こちらこそよろしくね」
“かわいい”
その言葉に思わず頬がピンクに染まったのがわかった。
言われ慣れてないから恥ずかしい。けど、嬉しいなあ。