嫌いな男 嫌いな女
「あー……えーっと。悠斗くんは? 剣道だよね? 終わったの?」
「うん、知ってたんだ、そう剣道。一緒に帰ろうか、せっかくだし」
そりゃ姿を見りゃ一発で剣道部ってわかるだろ。
なにを言っているんだ、悠斗、と突っ込んだら、思いもよらない言葉をかけた。
一緒に帰ろうって。なんだそれ。
「うん!」
それはもう嬉しそうにした美咲の笑顔と返事。
もう明らかに悠斗のことが好きだろってわかるような顔だ。
バカな悠斗は気にしてないのか気づいていないのか、そのまま自然に隣にならんで歩いていった。
……あーあー。
見るからに悠斗はお前になんも思ってねえぞ。ばっかだなあー。
呆れてふたりの背中を見ていると、明宏が「へー」と呟いた。
「小学校から見てたら、いっつも巽とケンカしてるし男っぽいイメージしかないけどよーああやって顔赤らめて好きな男と一緒にいる姿見たらやっぱ女なんだなー。美咲ちゃん、かわいく見えるよな。あんな顔始めて見た」
初めてみた美咲の表情に、明宏は驚いた口調で話した。
……初めて家に越して来たときも、確かあいつはあんな顔してた。
俺は、あの顔を知っている。だから別になんともおもわねえ。
おとなしくする姿も、戸惑いの表情も。
「……んだよ」
俺を覗きこんでくる明宏の視線に気づく。
ニヤニヤしてる顔に、悪い予感しか抱かねえ。
「いや? “かわいく見える”に反応するかと思ったんだけど」
「うっせーよおまえは。バカなこと言ってるからあきれてただけだよ!」
どっこがかわいいんだよ。
気持ち悪いだけだろうが。
あまりに信じられない言葉で反応できなかっただけだよ。