嫌いな男 嫌いな女

「はいはい。んじゃ、まーオレ帰るわー」

「はあ?」

「マネージャーと帰ればー? じゃあなー」


いや、いやいやちょっと待て。なんだよ急に。


「ちょ」

「はい、おまたせー!」


引きとめようとすると、その声をかき消すようにマネージャーが声をあげた。


「え? あ、ありがとうございます」

「いーよいーよ! で、そのお返しと言ってはなんですがー」


マネージャーからシャツを受け取ると、ニッコリと微笑まれる。
あまりにも可愛すぎる笑顔に、ちょっとびびってしまった。

……なんすか。


「マネージャーの仕事手伝って」


マジすか。
正直疲れたし、クーラーの効いてる部屋に帰ってゲームでもしたい。さっさとカエリタイ。

でも、先輩の笑顔を見てそれを言えるはずもなく、ボタンを付けてもらった手前断ることはもちろんできなくて。


「はい」


と力なく応えるだけだった。

それからさせられたことはといえば、マネージャーの洗濯物をまとめたり、ボールを磨いたり、雑用だ。
この量を毎日ひとりでやっているのかと思ったけど、面倒だからたまに、と言っていた。

いつもはひとりじゃないんだけどね、と言葉を付け足して。

じゃあいつもはだれと? って聞きたくなったけど、答えてくれなさそうな気もしたし、答えを聞くのも怖くなってなにも言わなかった。


「山森くんは、好きな子とかいないのー?」


成り行きで一緒に帰ることになって、のんびりと並んで歩く道。マネージャーがそんな話をしてくる。

マネージャーは俺よりも家が遠くてチャリ通だけど、歩いている。
ふたり乗りとかしていいなら送って行くけど、それはあっさり拒否された。

……好きな子、ねえ。

恋愛事の話ってよくわかんねーんだけどな。
あえて言うならあんただよ、なんて言えるわけもねえし。
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