嫌いな男 嫌いな女
「山森くん、もてそうなのになー」
「よくわかんねーっすよ」
「そんなこと言ってー実はいるんじゃないのー? ほら、前にケンカしてた女の子とか」
「……あ、あいつは! ただの隣に住んでる女で……! あり得ないっす!」
美咲のことだというのはすぐに分かる。
だからこそ力いっぱい否定をすると、ちょっと驚いてからクスクスと笑われてしまった。
「いいじゃん幼なじみって。憧れるなあ」
「……相手があいつじゃ全然よくないっすよ」
マネージャーみたいに可愛かったらいいのに。
「でもずーっと近くっていいじゃない。なんでも分かる感じするけどなー。幼なじみってすごい特別な関係ッて感じ」
「いや、マジで全然そんなんじゃないっす。ほんっと意味がわかんない女だし」
特別って。
まあある意味特別かもしれないけど。お互いにすげえむかつくっていう意味で。
女子そのものと話すのは好きじゃねえけど、かといって無駄にケンカしたりすることもねえ。美咲だって俺が知っている限りはだれとでも仲よくしてる気がする。
俺だって愛想はみんなが言うようにねえけど……別に冷たいわけでもないつもりだし。
そういう意味では、特別かもしんねーけど、そんなもんいらねえし。
っていうか。
なんでマネージャーと一緒に帰ってるっていうのに、美咲の話なんてしなくちゃいけねーんだ。
こんなふうに女子と一緒に並んで歩くとか初めてだっていうのに……。正直クラブの話しとテレビの話以外できねえし。ゲームの話しとかしたって盛り上がらねえだろうしなあ。
そんな俺の気持ちを察してか、話はマネージャーが沢山ふってくれた。しょーもないテレビの話とか、だけど。
正直どれも頭に入ってくるようなものではなかったけど、他愛ない話をしながら歩いているとあっといまに自分の家の前に着く。
「俺ここなんで」
「そっかー。じゃあまたクラブでね! 今日はありがとー」
「俺も、ありがとうございました」
シャツを持ち上げてそう言うと、マネージャーはにこやかに去っていく。
自転車にまたがって、俺に手を振りながら。