嫌いな男 嫌いな女
……なんかいい感じなんじゃねえ?
いや、よくわかんねーけど。楽しかったのかどうかもよくわかんねーけど。まあこういうもんなんだろう。
なによりかわいいし。
風になびく長い髪とかいいよなあやっぱり。
いい気分でにやける顔をこらえるように振り返って家に入ろうとしたら、人影が目に飛び込んでくる。
「じゃあ」
これは……間違いなく悠斗の声だ。
「送ってくれてありがとう」
そして、ためらいがちな美咲の声。
いつからここにいたのか。いつのまに美咲の家の前にふたりはいたのか。全然気づかなかった。
……っていうか。あいつら帰ったのクラブが終わった時間だから、4時くらいだったよな? 今7時すぎだよな?
こんな時間まで一緒にいたのか? なにしてたんだ?
悠斗に送ってもらった美咲は、薄暗い外でもわかるくらい真っ赤だ。俺が見たこと無いくらいバカで間抜けな顔をしてる。
「じゃあな、巽も」
え?
ばっかだなーと思ってさっさと帰ろうと思ったところで悠斗が俺の名前を呼んだ。気づいていたのかよ。
振り返れば、ふたりは俺の方を見ている。もちろん美咲は不機嫌そうな顔だ。さっきまでのバカ面とは全く違う顔。
お互い様だこのやろう。
「……おう」
とりあえず俺は『悠斗に』返事をする。
悠斗はにやつきながら俺の方に来て「やるじゃん、先輩と一緒になんて」と小さな声でそう言った。
見られた!? やっぱり見てたのかこいつら! なんで気づかなかったんだ俺……! どっから? どこまで??
焦る俺を放置して悠斗はもう一度美咲に挨拶して帰って行く。