嫌いな男 嫌いな女

頭を抱えながらクラブに向かうと、少し前を歩く巽と明宏くんが見えた。

……ふたりの手には、紙袋。
かわいいピンクの袋で、だれが見たってバレンタインのチョコだってわかる。

ふーん。本当に貰ったんだ……。
いや、まあ、明宏くんも持ってるし、そう珍しいことじゃないのかもしれない。


告白、されたのかなあ。


もやっとした気持ちになって、軽く頭を左右に振った。
あんな男が本命チョコをもらうっていう事実が気に入らないだけ。

それに、ちょっと想像できない。
巽が女の子のことを好きとか言っているのって。付き合うとかどーするんだろう。あんな男でも優しくしたりするのかな。

ま、もし付き合っても、すぐに化けの皮が剥がれて嫌われるに決まってる。

でも、あのチョコレートの女の子は……ちゃんと相手に渡したってことだ。
私のチョコレートと違って……。


クラブ活動が終わる時間は殆どどのクラブも変わらない。

ここまで来てしまうと、もうチャンスは少ない。
携帯を取り出して、悠斗くんにメールを送った。

心臓が口から出てきてしまいそうなほどの緊張で、指が震えてうまく打てなかったけれど。『クラブ終わったら、会えるかな?』という短い文章。

それに、悠斗くんはすぐに『わかった、いいよ』と返信をくれた。


幸いにも、クラブは少し早めに終わって、すぐに剣道部近くの体育館裏に向かう。
ここなら……あんまり人は通らないし。

待っているだけで心臓がバクバク鳴って、手が震えてしまう。
寒さのせいだと自分をごまかして、そわそわと悠斗くんが来るのを待つ。

隣の体育館からはまだ、バスケ部がボールをドリブルする音が響いている。


どうしよう。
なんて言葉をかけよう。
渡すだけのほうがいいのかな。
でもやっぱりちゃんと、言葉にしなくちゃいけないかな。

今まで、クラスの男子に渡したことはある。だけど、こんなに緊張したことなんてなかった。
緊張と、悠斗くんがどういう反応をするんだろうっていう恐怖。
もしもこのまま……もう話もできなくなったらどうしよう。
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