嫌いな男 嫌いな女
「あ、美咲ちゃん!」
「わあ!」
ぎゅっと目をつむって、恐怖から逃げていると真後ろから悠斗くんが私に声をかけてきた。思わずすっごい変な声を出してしまった……。
振り返れば、いつもどおりのにこにこした悠斗くん。
……その笑顔に、ほんの少しだけ緊張が和らぐ。
「どしたの?」
「え、えと……こ、これを」
しどろもどろにそう言いながら、手にしていた小さな紙袋を悠斗くんに向かって差し出す。
「あ、あの、その……」
あ、声が少し裏返っちゃった。
ああ、もうどうしてこんな、声がでないんだろう。
余計にパニックになっちゃうじゃない!
「こ、これ。あの、その。実は、あ、これ、チョコで……」
「あ、……ありがとう」
私の気持ちを察したのか、悠斗くんの声には戸惑いが含まれていた。
恐る恐る顔を上げて、悠斗くんに視線を向ける。
「え、と……ギリ、じゃない、よね」
「……う、ん」
力が抜けたような声で返事をするしかできなかった。
だって、わかってしまった。
悠斗くんの声から、表情から、悠斗くんの気持ちが、わかってしまった。
「……その、美咲ちゃんのことそんなふうに……思ったこと、なくて」
言葉を選びながら、私に言っているのがわかる。
どう言えば、私が傷つかないか、きっと一生懸命考えてくれている。
「あ、うん! いいの! 全然! 渡したかっただけで……気にしないで! ほんと!」
慌てて笑顔でそう告げる。
ちゃんと笑えているのかよくわかんないけど、必死で言葉をつなげた。
大丈夫だとか、いいのだとか、平気だとか。そういう言葉。
「……ごめん」
ぶんぶんと左右に頭と手を大きく振って、笑顔を絶やさないようにするので精一杯だ。
胸の真ん中らへんが、ぎゅうって痛む。だけど笑い続けた。