嫌いな男 嫌いな女

「これ、ありがとう。本当に、ありがとう」

「大したものじゃないけど、よかったら、食べて……ね」

「食べるよ、絶対。ありがとう」

「ありがとう……また、ね」


そう言うと、悠斗くんは微笑んでくれた。だから、それだけで十分だ。

きっと悠斗くんは、私が話しかけたら話をしてくれるだろう。きっとメールだってしてくれると思う。見かけたら声もかけてくれると思う。

ほら、今まで通りじゃない。
よかった。告白、できたのかわかんないけど、気持ちは伝わった。結果は……ダメだったけどさ。

今までと変わらず、悠斗くんは笑ってくれる。


よかった。ほんとよかった。


何度も心でそう言って、悠斗くんがいなくなってもその場で空を仰ぐ。
涙が、零れてしまわないように。

ゆっくりとうずくまって、目をぎゅうっと強く瞑った。
泣くな。泣かなくていいんだ。だってよかったんだから。


なのに、胸がずっと苦しい。だれかに心臓を握りしめられているみたいに痛くて辛い。



失恋って、こんなに、痛いんだなあ……。



必死に耐えてきたからか、涙は流れなかった。
もう、大丈夫、とう小さく呟いて顔を上げる——と、同時に後ろからなにかが投げられて私の体にあたった。


「え!? 痛! え! なに!?」


コツンコツンと頭になにかが当たる。
背中にも幾つか。

何事かときょろきょろと見渡すと……体育館の端に、だれかが走り去っていく姿が見えた。

……あの、後ろ姿って。
いや、まさか。いや、でも。

っていうか、なんだったんだろう。なにがあたったんだろう。
手元になにかが転がっているのに気がついて受け止めた。

小さな、バスケットボールの柄に包まれたチョコレートだ。他にも、サッカーボールとか、野球ボールとか。10個くらいが散らばっていた。

な、んで。なんでこんなものを? なんで“あいつ”は……?


くれたのか、投げられただけなのかわからない。
わからないけれど……そのうちの一つの紙を剥がして、ぽいっと口の中に放り込んだ。

甘いチョコレートが口の中に広がる。


「ふ、ふふ」


思わず笑ってしまう。
そして、ぽろりと涙が零れた。

せっかく我慢していたっていうのに、なんでこんなものを食べて溢れちゃうんだろう。
ああ、でも、さっきより苦しくない。
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