嫌いな男 嫌いな女
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家に帰って、ご飯を食べたあと。
部屋に戻ってしばらく考えてからカーテンを開けた。
この窓のカーテンを開けるのは、いつぶりだろう。引っ越してから初めてかもしれない。少し固い鍵を開けて、窓を引く。
冷たい風が室内に飛び込んできて、少し体が震えた。
……緊張、してるのかな。こうやって話しかけるのは初めてだし、あいつになにか私からするっていうのも初めてだし。
でも、悠斗くんにチョコレートを渡したときほどじゃない。
目の前には、隣の家の窓。巽の部屋の窓。
巽もカーテンを閉めているから、中の様子はわからないけれど、光が漏れているから中にいるのは間違いないだろう。
とはいえ、どうしようか。
玄関から持っていくのは……お母さんにも巽のおばさんにもひやかされそうで嫌だ。
ここあら声を出して呼ぶっていうのもいいけど、聞こえるのかわかんないし。大声出すのは夜だしなあ。
モノを投げるっていうのもいいけど、万が一ガラスが割れたら困る。
しばらく考えてから、よいしょっと、窓に脚を掛けた。
屋根の上に立つと、思ったよりもしっかりしているし、バランスもとれる。そして、巽の部屋の窓のしたの屋根も、そんなに遠くない。
飛ばなくても渡れる程度の距離だ。
落ちないように気をつけながら、ゆっくりと屋根を渡り、窓に手をかけてコツコツと鳴らした。
……聞こえないのかな。
今度は少し強めに窓を叩く。
……なにしてんのあいつ。
最終的に手をグーにして窓を思い切りドンドンと叩いた。
「な、なんだ!?」
部屋で巽の大声が聞こえる。
あ、もしかして寝てたのかも。だったら少し悪いことをしたかもしれない。でもまあ、仕方ないか。
ぼんやりと巽が窓を開けてくれるのを待っていると、思いの外、勢いよく開けられた。