嫌いな男 嫌いな女

「え、あ……! わっ!?」


窓に手をかけていたから、思わずバランスを崩してしまった。

う、わ……! 落ちる……!
そう思ったと同時に、がしっと手をつかまれて引き上げられた。

目の前には……巽の顔。

私の手をしっかりと掴んで、焦った顔をしていた。多分私よりも驚いたんじゃないだろうか。

っていうか、マジで死ぬかと思った……。


「ありが……」

「なにやってんだてめえ!!」


夜だから静かに来たのに意味が無くなるくらいの声で叫ぶ巽。
お礼を言おうとした私の声も一気にかき消した。

そんな怒らなくとも……とは思ったけれど、巽は真剣な顔で怒っている。


「ごめん……」


さすがに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
こんなつもりじゃなかったんだけど。

あまりに素直に謝るからか、巽も一瞬言葉に詰まってからボリボリと頭をかいた。


「あの」

「ったく大体なにしに来たんだよ? こんなところから来やがって……。ほんとにとんでもねえ女だな」


……そこまで、言わなくても……。
ちょっとむっとすると、私を見下ろす巽と目があった。


「あんだよ?」

「……別に」

「はあ?! なんもねえのに来たのかよ。嫌がらせか? 暇な奴だな! バカじゃねえの」


そういう意味で言ったんじゃないし。
っていうか、そういう意味でなにか聞いてたのかお前。

しかもそこまでいう? なんなの。用事があるから来たに決まってるでしょ。わざわざ嫌いな男の家に無意味に来るほどヒマじゃないわよ私は!

だれかさんは寝てたから暇だったんだろうけど。
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