嫌いな男 嫌いな女

「ちょ、ちょっと巽! なんてこと言うの……!!」

「え? なに? だって変だろ。男なのになんでスカートはくの?」

「巽!」


おばさんは真っ赤になって巽くんを怒っていて、渚ちゃんはため息をついていて、巽くんはそれでもわからない顔をしていた。

お父さんとお母さんは苦笑しているだけ。
隆太は笑いを堪えている。

……恥ずかしい。
恥ずかしい恥ずかしい!

違う!って言えばいいのに言えないくらい恥ずかしくて、スカートの裾をぎゅうっと握りしめることしかできない。

歯を食いしばって耐える私を巽くんは再び見つめてきた。


「お前オカマ?」


——パン、と思わず……巽くんの頬を平手で叩いてしまい、大きな音が響いた。

あ、と思ったけれどどうしようもない。
私の代わりに呆然とする巽くんを、涙をいっぱいにためた瞳で睨みつける。


「み、美咲!」


お母さんの慌てた声が聞こえて、そのまま踵を返して自分の家に走った。
このままここにいたら泣いちゃいそうなんだもん。

泣きたくない! 恥ずかしくて、泣きたくない! 

悔しい……! あんなふうに言われてなにも言えなかったことがすっごく悔しい! 


「な、なにすんだよお前!」


後ろから巽くんの声が聞こえた。
振り返りたくなくて聞こえないふりをして自分の家の門に手をかける。


「このオカマ! 変態!」


……あんな奴大嫌い!

バタバタと自分の部屋に入って、ベッドにだいぶしてまん丸にくるまった。
布団があればよかったのに。そしたら思い切り泣けたのに!


あんな奴大嫌い!
間違われたこともむかつくし、最後まで最低なことばっかり!

スカートなんて大嫌い! 履かなきゃよかったこんなの! 挨拶になんて行かなければよかった! 引っ越しだってしたくなかった!

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