嫌いな男 嫌いな女

「おい、開けろって!」


無理やり窓をぐいっと開ける。
一回引いて押せばバカな美咲はすぐに手を離した。


「ちょ……」

「お前それが人と話すときの態度かよ」

「べ、つに話なんて……!」


ぐわっと部屋の中を覗きこんで、今日はじめて美咲の顔を見た。
……真っ赤な目をした美咲と視線がぶつかる。


「お前、その顔……なにか……あったのか?」

「な、んでもない!」


なんでもねえわけあるかよ。
明らかに泣いた跡じゃねえかその顔。


「隆太とケンカでもしたのか?」

「なんでもないって」

「なんでもねえわけねーだろ!」


頑なに認めようともせず、顔を背ける美咲に思わず声を荒らげてしまった。

驚いた顔を俺に見せて、暫く考えてからまた目を伏せる。

……怒鳴るつもりはなかったんだけど……。
自分でも驚いて、頭をポリポリとかいた。

えーっとどうすりゃいいんだ。
でもなんもねえわけは絶対ないし……。


「どうした?」


小さく深呼吸をしてから、今度はできるだけ優しい声を心がけて問いかけた。

美咲は黙ったまますっくと立ち上がり、窓を大きく開ける。


「入れば?」

「え?」


入るって部屋に? 美咲の部屋に?
なんで突然?


「近所迷惑だし……外で、話したくない」

「あ、ああ……」


とはいえ、さすがにこれは緊張するな。
女の部屋なんて姉貴の部屋以外に入ったことはないし、そもそも姉貴の部屋だってここ数年入ってない。

怒られるからな……。漫画取りに入るだけですげえ切れるからな。なんであんなに完全犯罪なのにバレるんだろう。

一瞬躊躇したけど、美咲の顔が今まで見たこともないほど暗く、放っておけないと、思った。

多分、俺が部屋に入らなければ、こいつはなにも言わないだろう。
泣いた理由も、外では話したくない理由も。

……そんなに聞かれたくないことなんだろうか。

こんな美咲は初めてで……さすがに調子が狂う。
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