また桜が咲いたら
目の前に…巣から落ちた小鳥みたいな
誰かの手から離れてフワフワと空を舞う風船みたいな

少女が居る

今にも泣きそうな少女がいる


「…私、やっぱり明日出てく」

「…いいよ。此処に居て」

「でも!でもやっぱり…」

言葉を遮るように俊が立ち上がる

「俺、風呂入ってくるから」

「まだ、話終わってない!」

「…」
俊はそれを無視して風呂場の方へ歩いて行く

やっぱり迷惑なんだ
ハッキリ言ってくれたほうがいいのに

荷物をまとめようと立ち上がった時、リビングと廊下を仕切ってあるドアが開く

俊が顔を出す

「もう契約金代わりの物は貰ったから」
そう言いながら、しーちゃんから貰った苺の飴を指で摘まんでヒラヒラさせる

「契約成立。朝飯も頼む」

そう言って俊はドアを閉めてしまった

桜香はその場にひざまずいてしまった

張り詰めていた糸が切れるように

我慢していた涙が溢れる

抑えたいのに嗚咽もとまらない

「帰りたくない…私はここに居たい…」

「ここに居たいよ…」




熱いシャワーを浴びる

別にあの子に同情したわけじゃない

何でだろう

俺があの子に居てほしいと思った

何でだろう…
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