また桜が咲いたら
映画から数週間、涼香と話す機会が増えた。
別に付き合っている訳ではない。
たまに登下校が一緒になったりした時は並んで歩く。
ただそれだけの関係だった。
その日の帰り道も涼香と並んで歩いていた。

「ねぇ、渡部君…」

「…ん?」

「あのね…」



「なんだよ。」

「…あのね、もう少しで夏休みでしょ?…海…行きたい…」

「い、いいけど」
涼香に誘われた事ではなくて、涼香の改まった態度に緊張した。

「ほんとう!?じゃあ、夏休みに入ったらすぐに行こう!!どこの海がいいかな!?」

涼香は嬉しそうに話し続けた。
その日は今まで知らなかった涼香をたくさん知った。

涼香の家が父子家庭で父親と祖父母と暮らしていること。

海に一度も行ったことがないこと。

今まで誰とも付き合ったことがないこと。

60円のチェコレートアイスが好きなこと。


「なぁ」
「ねぇ」
二人の声が重なる。

「渡部君、先に言って」

「佐々木からどうぞ」

「こういう時はレディファーストじゃなくていいのよ」

「いいから先に言えよ」

「渡部君こそ男なら、男らしく先に言ってよ!」

「男らしくって…関係ねぇじゃん…」
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