わがままモデル王子は甘い香り
「あ、私、斎藤 春美って言います
握手、いいですか?」

春美っていう女が俺に手を差し出してくる

「ええ、いいですよ」

俺は握手をすると、すぐに手を後ろに隠した

「莉緒、行くぞ」

俺は次の話題に入られる前に歩きだした

「え? あ…春ちゃん、またね」

莉緒が慌てて追いかけてくるのがわかった

「桜嗣?」

莉緒は俺のシャツを掴んで、不安そうに声をかけてきた

「ごめん
俺、女ってあんま好きじゃねえんだ」

「うん」

「友達?」

「高校のクラスメート
そんなに親しくしてなかったんだけど、桜嗣とマンションのエントランスで抱き合ってるのをスクープされたときにメールしてきたんだ
でも、あのときは『違う』って答えたんだけど」

莉緒が気まずそうに、声がだんだん小さくなってきた

「いいんじゃねえの?
最善の選択だろ」

「そう…かな」

「ああ、早く帰って食洗機をためそうぜ」

莉緒が噴き出した

「早く使いたいからってわざと食器を汚さないでよ?」

「んなことしねーよ」

俺は声を出して笑った

莉緒と手をつなぐ
温かい体温が伝わってくる

莉緒の腹の中にもう一人いるんだ

俺の子が腹の中にいる
そう思うと自然と握っている手に力が入った
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