わがままモデル王子は甘い香り
病院の廊下を走り、手術室の前の椅子に座っている紫音と彰吾の二人に近づいた

「莉緒は?
どうして病院にいるんだ」

「落ち着け」

彰吾が立ち上がって俺の肩を掴んだ

「私が説明をする」

紫音も立ち上がって、俺の斜め前に立った

「莉緒さんが飛び出してすぐに彰吾から電話をもらって、私もバーに向かったんだ
桜嗣が飛び出して、どれくらい経ったのかは知らないけれど
莉緒さんがバーに戻ってきた
それで春って女と話を二人きりで話すをするからと店をまた出て行った

私は二人が心配だったから、店の外に行くと……春ってヤツが莉緒を……」

紫音が目に涙をためて、言葉に詰まった

「交通量の激しい道路に突き飛ばした」

涙を流す紫音のかわりに彰吾が口を開いた

「突き飛ばしただと?」

「ああ、俺も見た」

なんてヤツだ
莉緒を……殺すつもりだったのかよ

「くそっ」

俺は握りこぶしをつくると、病院の壁を思いきり殴った

拳に痛みが走る

くそっ
どうして俺はすぐに追いかけなかったんだ

どうしてすぐに莉緒を見つけられなかったんだ

「莉緒さんは助かる
確かに車にひかれたが、救急車に乗り込む莉緒さんは意識があった」

「本当に助かるのかよ……
適当なことを言うなよ」

俺は椅子に座ると、煌々と光る『手術室』の文字を眺めた
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