わがままモデル王子は甘い香り
時間だけが過ぎていく
どれくらい過ぎたのだろう

たぶん外は明るい

紫音と彰吾は仕事があるからと、病院をあとにした

俺が一人だけ
手術室の前にいる

社長に連絡をした
社長から莉緒の母親に連絡がいっているはずだ

俺は椅子に座ったまま、冷たい壁に頭をつけて、開きそうにない手術室の扉を眺めていた

どんな状況なのか
俺には全くわからねえ

仕事はたぶん社長とマネでキャンセルしてくれているだろう

体は疲れている

たぶんな

頭も、精神も疲れている

たぶん……

でも目を閉じても眠れない

目を開けていても、何も見えない

俺は莉緒を助けたいのに、何もできていない

守ることすらできなかったんだ


どうしてあのとき、莉緒を見つけられなかった?

どうして俺は、莉緒に『違う』と言えなかった?

春の言い分を何で、強く否定できなかった?


なんで俺が車にひかれなかった?
俺だったらよかったのに

莉緒じゃなくて、俺が……

どうして莉緒なんだ

どうして莉緒ばかりを苦しめるんだよ
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